世界中で精子の減少が起こっています。
男性ホルモンの減少と草食化
「 草食系男子 」という言葉が流行語大賞に選ばれてからはや●●年立ちます・・・。
若い男子の草食化は当時の流行や社会現象だと思っていた人は多いと思いますが、男子の草食化は男性ホルモンの減少が大きな要因の一つと言われています。
実は日本だけでなく世界中で男子の草食化、男性ホルモンの減少が起きています。
昨年の夏、イスラエルとアメリカの研究者らが発表した調査結果によると「 米欧およびオーストラリアとニュージーランドに暮らす男たちの精子数はこの40年で半分以下に減った。
つまり、今の男は祖父の代に比べて半分しか精子を作っていない。私たちの生殖能力は半減したのだとのこと。
精子数は1973年時点で精液1ミリリットルあたり9900万個だったが、2011年には4700万個に減っていた。しかも減少ペースは上がっていて、悪くすればあと40年でゼロになるといいます。
精子の研究は1970年代からあると言われていますが何故これまで見逃されてきたのか。
その答えは余裕があったから。
1つの卵子を受胎させるには1つの精子で十分なのに、昔の男性は1回に2億個もの精子を放出していました。
だからか2億個が1億個に減っても心配せず。一方で人工授精の技術も進み、少ない精子で受胎が可能になりました。
いわゆる「少子化」が問題になっても、男性のせいだとは思われなかったのです。
経済的に自立したい女性が出産を遅らせ、出産の回数も減らしているせいだと考えられました。
この問題は、生殖医療の専門家は何年も前から気が付いていたようです。
精子の減少を示唆する研究は1970年代からありますが、決定的な証拠はみつからず。
そこで研究科たちが3年前から統計学的な手法で問題の全体像に迫ろうとしたそうです。
結果は衝撃的なもので、精液1ミリリットルあたりの精子数が1973年当時に比べて半分以下に減っただけでなく、精子の総量も6割近く減っていた。つまり精液の量が減り、そこに含まれる精子の数も減っていたのです。
一般に、精液の濃度が薄い男性は死亡率が高く、糖尿病や癌、心臓病などになりやすいと言われています。
テストステロン(男性ホルモン)の分泌も減っていて、しかも、まだ母親の胎内にいるうちから足りていない。何か原因が解明されれば…答えは意外なところにありました。
精子減少の原因
その答えとは…。決定的な原因は「 プラスチックの微粒子 」
これらを体内に取り込んだ私たちのホルモンバランスに深刻な影響を与えていたのです。
人のホルモンバランスに悪影響を及ぼす合成化学物質は、専門用語では「内分泌かく乱物質」と呼ばれます。通称は環境ホルモン。
私たちが日常的に使うプラスチック製品の可塑性や強度を高めるために使われる物質の多くは環境ホルモン(内分泌かく乱物質)なのです。
私たちはプラスチックに囲まれて生活しています。
ペットボトルや食品の容器、サプリメントや錠剤のコーティング、柔軟剤や乳化剤、洗剤、便利な包装材。
食品加工の装置にも使われているので微量ながらも確実に私たちの口にはいってしまいます。
現代社会に生きる私たちは、いやおうなく環境ホルモンを体内に蓄積させているのです。
しかも、その影響は遺伝するのです。肥満による精子数の減少は遺伝しませんが、化学物質の影響で男性ホルモンの分泌が減った場合、その傾向は息子に受け継がれます。
つまり精子の少ない親から生まれた子の精子は、もっと少ない可能性があるということです。
プラスチックに含まれる環境ホルモンを規制するのはとても難しいことです。
ある化学物質の使用を禁じてもすぐに代替製品が開発され別な化学物質が環境中に放出されてしまうのです。いくらタバコの危険性が指摘されてもタバコ産業が滅びないのと同様、石油化学産業も簡単には滅びません。
それに、今の私たちはプラスチック製品なしに生きてはいけません。
そのせいで精子の数が減るのだとすれば、なんとか別な方法で男性の生殖能力を維持する事はできないのか…。
どんなに男の精子が劣化してもきっと繁殖を可能にする技術的な解決策がみつかるはずです。
体外授精の技術は進んでいます。いざとなればプラスチックに汚染されていない代理父の精子を借りる手もあります。技術革新に限界あありません。
仮に男性の精子がゼロになっても幹細胞を培養し精子を作るという奥の手があります。体外配偶子形成と呼ばれる技術です。
マウスの胎生幹細胞から精子のもとになる細胞を作り、これをマウスの精巣に移植して精子に育て、めでたく妊娠・出産にこぎつけています。(ちなみに実験で使った幹細胞はメスのものでした。)
つまり理論上では男性がいなくても精子はでき人類は生き延びるということなのです…。
精子の異常をゲノム編集
また、先日、京都大のチームがマウスの精子異常についての研究発表をしました。遺伝子の変異で生じたマウスの精子の異常を、ゲノム編集によって治療できたと、京都大などのチームが発表しました。
男性不妊のメカニズム解明や治療研究につながる可能性がある。精子は、もととなる細胞が精巣で分裂、成熟して頭部や鞭毛(べんもう)をもつ独自の形がつくられる。
チームは、遺伝子の変異によって、精巣に多くみられる特定のたんぱく質をつくれないマウスのオスが不妊になり、精子の形がいびつになっていることを発見。
このたんぱく質が、精子の正常な成熟に必要な酵素を活性化させていることを見いだした。
たんぱく質をつくれないマウスにゲノム編集をし、この酵素によって起きる反応を模した機能を与えたところ、野生マウスと同じ程度に妊娠、出産させることに成功した。 (朝日新聞)
注)ゲノムとは、DNAに含まれるすべての遺伝子情報のことです。
注)ゲノム編集とは、遺伝子の改変技術です。人工ヌクレアーゼというDNA切断酵素を用いて行います。
ただ、この実験は、まだマウス実験の段階です。
これまで不妊治療というと女性がターゲットになっていることが多かったと思います。
しかし、こういった男性の精子の問題についても研究が進んでいることが分かりました。
現代において、不妊の原因は男女50%ずつと言われています。
今後の人体への研究が進むことも期待できますし、女性だけでなく男性の不妊の原因解明や治療研究にも視点が向かうこととなったすばらしい研究発表だと思います。