不妊治療といっても様々な方法があります。
不妊治療を大きくわけると、一般不妊治療と高度生殖器医療があり、一般不妊治療とは、タイミング法、排卵誘発法、人工授精、その他薬物療法(漢方含む)を指し、高度生殖器医療は体外受精(体外受精・顕微授精)を指します。
今回話をすすめていくのは一般不妊治療にあたる” 人工授精 ”です。
” 人工授精 ”とは、妊娠を目的に人工的に運動性の良好な調節された精子を排卵日に確実に子宮腔内に注入することをいいます。なんらかの原因で卵管膨大部の卵子への到達精子濃度が低い場合にその濃度を高めようとする方法です。
人工授精は注入する精子により【配偶者間人工授精(AIH)】【非配偶者間人工授精(AID)】に分けられます。
また精子を注入する部位によって
- 子宮頚管内授精(ICI)
- 子宮腔内授精(IUI)
- 腹腔内授精(DIPI)
- 卵胞内授精(DIFI)
- 子宮鏡下卵管内精子注入法(HIT)
に分けることができますが、一般的に妊娠率や簡単に行えることから子宮腔内授精(IUI)が選択されています。
人工授精を行っていく場合は、適応や妊娠率、リスクについての説明をうけてから治療をすすめていきます。とくに非配偶者間人工授精(以下AID)に関しては日本産科学会の「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解に従って行っていきます。
配偶者間人工授精(AIH)
AIHに向いている
軽度乏精子症・軽度精子無力症・フーナーテスト不良・射精障害・性交障害・頸管粘液不良症・機能性不妊・男性の長期不在が適応となります。
また、精子に問題はなくタイミング療法を6周期以上行っても妊娠に至らず、体外受精を行うことには抵抗ある夫婦にも向いているといえます。
AIHの禁忌
AIHを行う際には、夫婦ともに感染症の有無を調べ問題があった場合その部分をクリアにしておくことが大切です。
その他、女性側が事前に子宮卵管造影で子宮や卵管の状態や、基礎体温で排卵があるかどうか・排卵時期はいつなのかを把握しておくことが必要です。
男性側は精液検査で精子の状態を把握しておきます。(一回の検査で異常があった場合には精液検査を数回行ってから状態を再度確認していきます)
女性の両側の卵管が閉塞している場合、人工授精を行っても卵子と精子が出会う事ができません。病院の先生の指示に従い体外受精を視野にステップアップすることをおすすめします。
排卵日の特定
1)自然周期
基礎体温を目安に来院する日程を決め、子宮頚管粘液・尿中LH・超音波での卵胞の大きさをチェックしAIHを行う日を確定していきます。
2)薬物療法
内服薬や注射を使用しながら排卵日を特定していきます。
AIHのタイミング
一般的に卵管内での精子の生存率、受精能力期間は約48~72時間と言われています。
排卵後の卵子の生存期間は12~24時間であることを考え、排卵予想日またはっその直前に人工授精をおこなうと妊娠の確率が高くなるといわれています。(これはタイミング法でも同じことがいえます)
AIHの方法
まず卵胞や子宮内膜の厚さを測定し、タイミングが適切であることを確認します。
確認後、子宮頚管液を吸引し、人工授精用カテーテルで子宮内に精子を戻していきます。
AIHの副作用
副作用の多くは子宮頚管内からの出血や腹痛などがあります。
大きな問題になることはありませんが、AIH後数日経っても出血が止まらない、我慢できないほどの腹痛がある場合は早めに主治医に相談してください。
その他、可能性は少ないですが感染予防のため抗生剤を服用することがすすめられています。
非配偶者間人工授精(AID)
非配偶者間人工授精とは、パートナー以外の精液を使用し人工授精にて妊娠を試みます。
日本で初めてAIDにより子どもが誕生したのは1984年、その後もAIDにより誕生した子どもは年間平均約120人ほどいると言われていますが、実際は1万人以上から3万人以上といわれています。
その理由はなぜでしょうか。
日本産婦人科学会での調査では「AIDの治療を施して、AID児が生まれた」とういことを病院側が学会に報告をすることでカウントされるので、報告のないAID児の数はカウントされないからです。また、AIDの治療を行った後、通院しなくなるカップルもいます。無事妊娠したらAIDを行った病院ではなく別の産婦人科で出産することがあるのです
また、【AIDは人工授精にのみ適応される】とする日本産婦人科学会のガイドラインも必ず守らなければならないという法的規則はないため、AIDを体外受精で用いる場合には、この調査外として扱われることになります。ガイドライン上認められていないシングルマザーや同性のパートナーなどのAID実施も調査外となりよって正確なAID児の数は確認が取れないようです。
パートナー以外の精液を使用するのに抵抗がある方もいると思いますが、AIDに使用される精子の条件はとても厳しくふるいわけられています。
AIDに使用される精子提供者の条件
- HIVをはじめとする感染症にWindow期間*が存在し、実際に新鮮精液使用によるこの期間の感染が報告されている事を考慮し、少なくとも180日凍結保存してその後提供者の感染症検査を行って陰性であった凍結保存精液のみを使用する。(*Window期間とは…ウイルスなどの病原体に感染してから、検査で検出できるようになるまでの期間のことをさします。実際には感染しているにもかかわらず、この期間に行う血液検査では、結果が陰性(偽陰性)とでてしまいます)
- 同一の精子提供者からの出生数は10人を越えないこととする。
- 提供者の年齢は満55歳未満の成人で精液所見が正常の精液を用いる。
- 遺伝性疾患を認めないことを確認する。
- 夫血液型と同型の精液を用いるため精子提供者の血液型を確認する。
- 提供された精子の保存期間は5年間とし、提供者の死亡が確認された時には精子は廃棄する。
- 精子提供者は同意書に著名して登録される。
- 営利目的による精子提供は禁止する。
AIDの適応
男性側要件
- 精巣組織から精子が回収できない無精子症
- 顕微授精を行っても受精せず妊娠不可能と考えられる症例
女性側要件
- 基礎体温、子宮卵管造影、感染症などの検査で異常がない場合
夫婦要件
- 法的に婚姻している夫婦である
- 双方が書面でAIDの治療に同意している
AIDの禁忌
両側卵管閉塞、女性側の性感染症
実施に必要な手続き
- 夫婦確認のための戸籍謄本提出
- 夫婦の血液型の確認
- 同意書の提出
AIDの方法
精液を子宮腔内に戻すところはAIHと違いはありません。
一度凍結した精子を使用するので、新鮮精子を用いた場合と比較すると低率であると言われています。
しかし、この結果もAIDを行った後の患者の経過が不明な事もあり、はっきりとした数字ではありません。
インフォームドコンセント、カウンセリング
精子提供者・AID治療カップル・治療歴の記録を80年間記録、保存し下記のような問題に対応していきます。
- 子どもの出自を知る権利 提供者の開示について検討されているが、相談があった場合、公的管理運営機関が対応します。
- 近親婚とならないための確認 将来、結婚前に公的管理運営機関で近親婚にならないことの確認をできる。
- 親から子への告知 親が子供に告知する場合、小学校低学年までが望ましいとされる。
AIDには多くの課題が残っています。
現状では提供者の開示は認められていませんが、現実的に開示を全面的に認めた場合には治療が困難になっていくと考えられるそうです。
AIDで生まれた子どもが必ずしも、提供者を特定できることまでを望んでいない事実も報告されています。提供者を特定できない程度の身体の特徴・人柄・職業などを一部開示する方法で進み、今後、AIDで生まれてきた子どものフォローアップを地道に行うことで次の段階にステップアップしていくのが今後望ましいと考えられます。
不妊治療には技術だけでなくいろいろな課題が残っていることがわかりますね。
人工授精と鍼灸治療の通い方
人工授精の場合は週一回のペースで通い、身体を整えるほかに、排卵日とその5日の着床日に当たる日に鍼灸をするといいです